大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)126号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証の三(願書添付の図面)及び甲第八号証(昭和五九年三月八日付け手続補正書中の全文補正明細書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりと認められる(別紙第一図面参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願発明は、下水管等の地中埋設管において、その破損ないし亀裂箇所等を通じて外部へ漏出する水量、あるいは外部から浸入する水量を知るために、漏水量を測定する方法に関する(本願明細書第一頁第一九行ないし第二頁第二行)。

下水管において、地下水あるいは雨水等の浸入水量を知るために、従来は下水管内にテレビジヨンカメラを挿入し、地上のモニター用テレビジヨン受信機で管内を目視推定していたため、大まかな量しか分からず、また、使用するテレビジヨンシステムが高価で、取扱いも面倒であるという欠点があつた。

本願発明は、地中埋設管の漏水量を簡単かつ正確に、しかも経済的に測定できる漏水量測定方法を提供することを目的とする(第二頁第三行ないし第一三行)。

(二) 構成

本願発明は、右目的を達成するために、その要旨とする構成を採用したものである(第二頁第一四行ないし第三頁第三行)。

本願発明の一実施例を別紙第一図面によつて説明すると、第1図において、漏水量を測定しようとする地中管路3は複数本の下水管/1~/nを直列連結したもので、上流側マンホール2と下流側マンホール2´とを連通している。まず、測定対象地中管路3より一本上流側の地中管路3´の出口に、上流側マンホール2を通じてエアーパツカ4を挿入して膨脹させ、マンホール2の流入口を閉塞して地中管路3´からの下水の流入を遮断する。次に、地中管路3を形成する下水管/1~/nのうち一番上流側の下水管/1の漏水量を測定するため、二番目の下水管/2の上流側開口部を別のエアーパツカ5で閉塞する(このエアーパツカ5への給気は、下流側マンホール2´から行う。)。このような閉塞状態で、上流側マンホール2内に注水ホース6を通じて清水7を注入するが、この注入は、下水管/1内が満水してマンホール2内が貯水状態となり、その貯水位WL2が地下水位置WL1より所定の高さだけ高くなるまで行う(第三頁第四行ないし第四頁第三行)。

その後、貯水位WL2の単位時間当たりの下降量を目盛尺等で測れば、下水管/1における単位時間当たりの漏水量を知ることができる。次に、二番目の下水管/2における漏水量を測定するには、エアーパツカ5を収縮して下流側へ移動させた後、再び膨脹させて三番目の下水管/3の上流側開口部を閉塞し、新たにマンホール2内に清水7を注入しマンホール2内を貯水状態にして、その貯水位WL2の下降量を測定する。この場合の測定結果は、二本の下水管/1、/2を合わせたものとなるが、一番目の下水管/1の漏水量は既知であるから、それを今回の測定結果から引けば、二番目の下水管/2における漏水量を求めることができる。以下同様にしてエアーパツカ5の収縮移動、それによる下水管/3~/nの閉塞、マンホール2内への清水7の注入、貯水位WL2の下降量の測定を繰り返し、今回の測定結果から前回の測定結果を引けば、各下水管における漏水量を知ることができ、地中管路3全体の浸入水量は、前記のようにして求めた漏水量から推定できる(第四頁第一六行ないし第五頁第一七行)。

(三) 作用効果

本願発明は、地中管路の漏水現象をマンホール内における貯水位の変化としてとらえ、その変化量を測定するものであるから、地中管路の漏水現象をマンホール内において簡単かつ正確に、しかも短時間で測定することができる。そして、使用する機器は、二個のエアーパツカと、それを膨脹させるための圧縮空気供給源と、注水手段と、貯水位を測定する測定手段で足りるから、経済的である。なお、マンホール内に注水した水によつて地中管路内を洗浄できるため、事後に漏水箇所の補修を行う際に便利である(第六頁第五行ないし第一六行)。

2 一方、成立に争いない甲第一〇号証によれば、引用例第一頁第一六行ないし第二頁第八行には、高層建築物の衛生設備工事において必ず行われる排水立管及び汚水立管の水密性検査の従来技術として、審決認定のような満水テストの方法が記載されていることが認められる(別紙第二図面参照)。

3 右認定によれば、本願発明が地中埋設水管における漏水の量を測定することを技術的課題としているのに対し、引用例記載のものは高層建築物に設けられる立管の水密性、すなわち漏水の有無のみの検査に係るものであるから、両者は、その技術的課題(目的)を異にしていることは明らかである。したがつて、引用例の記載に基づいて本願発明の技術的課題及び構成の予測性があるか否かを検討することなく、両者が共に排水管を対象とするとの一事のみから、引用例記載の技術を本願発明に利用することは容易に着想できるとした審決の判断は失当というべきである。

この点について、被告は、水平管の満水テストに際しその両端を閉塞することは当然であり、地中埋設管への注水をマンホールを利用して行うことも当然想到し得る事項であると主張する。しかしながら、本願発明は、その要旨から明らかなとおり、漏水量測定に当たり地中埋設水管を閉塞すべき位置を、マンホールを挟む上流側と下流側の二位置に限定することを必須要件とするものであつて、単に地中埋設水管の両端(二位置)を閉塞するというものではないし、マンホールを貯水状態にしその水位の変化を測定する技術が本件出願前に公知ないし周知であつたことを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は失当といわざるを得ない。

したがつて、相違点<1>に関する審決の判断は誤りである。

4 審決は、満水テストにおいて貯水位の変化を測定することは何ら工夫を要することと認められず、それをマンホールで行うことは測定対象から容易に想到し得たものと判断している。

しかしながら、容器の貯水位の変化によつて漏水量を測定することが慣用技術であるとしても、引用例記載のものは前記のとおり漏水の有無のみの検査に係るものであつて、漏水の量を測定することまでを技術的課題としているとは認められないし、貯水位の変化の測定をマンホールにおいて行う技術が本件出願前に公知ないし周知であつたことを認めるに足りる証拠がないことも前記のとおりであるから、審決の右判断は合理的根拠を欠くというべきである。

この点について、被告は、漏水の測定はそれが定性的であるか定量的であるかによつて基本的に異なるものではないと主張するが、単に漏水の有無を検査すること(すなわち定性的測定)と、漏水の有無のみならずその量をも確認すること(すなわち定量的測定)とが別異の技術的課題に属し、したがつて採用すべき構成も異なることは当然であつて、被告の右主張は失当といわざるを得ない。

したがつて、相違点<3>に関する審決の判断も誤りである。

5 以上のとおりであるから、審決は、相違点<1>及び<3>の判断に当たり、引用例記載のものの技術的課題ないし技術内容を誤認した結果、本願発明は引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤つて判断したものであつて、違法であるから、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

マンホールを介し連通している上流側の地中管路と下流側の地中管路のうち、上流側の地中管路の出口をエアーパツカ等で閉塞し、この地中管路から上記マンホール内へ流入する水を遮断する過程と、

前記下流側の地中管路の内側の任意の位置を、同じくエアーパツカ等で閉塞する過程と、

前記マンホール内へ注入し、下流側の地中管路の前記閉塞位置より上流側の部分を満水状態にすると共に、さらに、マンホール内を貯水位が地下水位より高くなるまで貯水状態にする過程と、

その貯水位の変化を測定する過程

とから成ることを特徴とする地中埋設水管の漏水量測定方法

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!